2015年9月27日(日曜日)
【長野県】 佐久市
窓の外を飛び去る初秋の夢。
稲穂が揺れて風が姿を現す。
遠く雲をかぶった山並み。
農作業の人々がまばらな田んぼに散らばっている。
白いヘルメットをかぶった、自転車をこぐ中学生の点がゆっくり稲穂の海を漂っている。
同祖神の石が雑草に見え隠れする。
アスファルトの白線は消え、代わりに空に雲がくっきりと浮かぶ。
高い空。
秋の風。
ほのかっていう温泉施設はとても気持ちよかった。
広々とした露天風呂があり、思わず、めっちゃいいやんーとつぶやいた。
地元のおっちゃんたちに混じって湯船につかる。
風が吹いて、立ちのぼる湯気をさらっていく。
海外では公衆浴場があるような国はほとんどなかった。
そう思うと、田舎でも都会でもどこでもお風呂に入れる日本はとても旅しやすい。
前はよく秘湯を探して色んなところに行った。
山奥のハイキングしないといけないようなところにある野天風呂とか、河原がそのまま湯船になってるところとか。滝が温泉っていうやつは結構ある。
まるで秘密のお宝を見つけたような気分になれる。
そしてそれくらい、町場にあるレトロな銭湯も好きだ。
いまどき富士山の絵が描いてる銭湯なんてあるのか?ってところだけど、実は未だそういう場所は多い。
重要文化財か?みたいなお屋敷の銭湯ってのもある。
町の中を歩いていて、民家の間からニョキッと伸びた煙突を見つけたら、だいたいそれは銭湯か造り酒屋だ。
そんな大正時代みたいな銭湯で、中途半端な刺青の入ってるオッさんたちに混じって体を洗っていた。
秋の風は、そうした昔の情景を連れてくる。
うおおおー………こりゃいいや。
古民家カフェなんだけど、まぁ全ての小物や調度品がセンス良く配置されており美しくまとまっている。
まきストーブや屏風、縁側の灰皿、何気ない物が何気なく置かれているんだけど、美意識しか感じない。
それを作るママさんはやはりとても素敵な人だった。
今日のライブ会場、山桃果。
「おーい、お疲れー。金丸ちゃん今日もよろしくね!」
昨日に引き続き、今日もイベントを組んでくださったムーミンさん。
遠いところ来てくれるのにイベント1本じゃ申し訳ないと、ツーデイズにしてくれたのだ。
こうした配慮は本当に嬉しいし助かる。
ムーミンさん、ありがとうございます。
リハーサルを終え、コーヒーを飲みながら縁側でタバコをふかす。
暖かい日差しにポカポカしながらぼーっと煙を眺めていると心がとても穏やかになっていく。
ああー、気持ちいいなぁ。
こんなにまったりして今日ライブできんのかな、と思っているところだった。
「あー!金丸さん!わかりますか!?久しぶりです!!」
やってきたお客さんが俺を見るなり爽やかな笑顔で声をかけてくれた。
昨日の野外イベントでも、ブログを読んでくださっている若いカップルさんが見にきてくれていた。
そのかたたちは初対面だったのだが、今目の前にいるオシャレでハンサムな兄さんは完全に俺とどこかで会ったことがある親しさをにじませていた。
あ、あれ?えーっと、どこだったっけ…………
どこで会った人だろう…………?
やべやべ、どうしよう。でも確かに見覚えのある顔…………
ど、どこで会ったかただっけ……………
「金丸さん!ホラ!インドですよ!!」
「えー…………………………………あ!!!あああああああああああああああ!!!!!!タカシ君!??!タカシ君!!??」
まさかの、
まさかの神降臨。
そう、あのインドで、金がなくてヒーコラしている時に突如現れ、俺をボスニアヘルツェゴビナとブルガリアの呪縛から解き放ってくれた救世主中の救世主メシア。
あのタカシ君!!!!!!!!
「うおー!!!!!久しぶりっていうか顔違いすぎ!!!!!!」
「いやー!あの時は旅してましたからね!!元気そうですね!!!」
ドルとかユーロとか、強い国のお金なら世界中のどこででも換金できるのだが、他のどこのお金だろうと、お金だったら銀行でちゃんと換金できるものだと勝手に思い込んでいた世界一周の始めの頃。
毎日国から国へ国境をまたぎまくっていたので、あの頃バッグの中には路上で稼いだ各国の紙幣がたくさん入っていた。
そしてエジプトにたどり着いた時に、旅の先輩に、小国のマイナーなお金はその国か近隣の国でしか換金してもらえないよ?と教えてもらって愕然とした。
え?じゃあこのバッグの中の各国のお金どうすればいいの?
それから色んな旅人に会うたびに、交渉してお金を換金してもらっていたんだけど、最後まで残っていたのがボスニアヘルツェゴビナとブルガリアのお金だった。
合わせて240ドル分くらいあった。
誰かー!ボスニアヘルツェゴビナ行かないですかー!
この世のものとは思えない美しい国ですよー!と必死に呼びかけまくるも、あまりボスニアに行くような旅人はいない。
おかげでずーっとその2万5千円分のお金はバッグの底に眠ったままだったんだけど、インドにたどり着いた時にマジで金がなくて本当どうしようか困り果てていた。
そこに現れたのがタカシ君だった。
彼は世界一周中で、これからインドを出てバルカン半島に行くのでボスニアヘルツェゴビナとブルガリアのお金を換金しますよ!と言ってくれた。
インドで2万5千円が手に入ったおかげで、先に進むことができ、無事日本にたどり着けた。
あの時タカシ君と会うことができていなかったらどんなことになっていたのか…………
考えるだけでも恐ろしい。
「いやー、金丸さんあの時下痢で体調ボロボロになってましたよね。それでも路上で歌ってて。今でもあの時の路上覚えてますよ。」
インドで会った時はヒゲが生えててもっと野生的な雰囲気だったのに、今はただの爽やか好青年。
旅人あるある。
あの時俺はバラナシに行く電車の時間が迫っていて、お金の換金をしてチャイを飲んだらすぐにデリーを出た。
たったの1時間半くらいしか一緒にいなかったのに、こうしてわざわざライブに来てくれるなんて……………
うー、気合い入る。
いいライブするぞ!!
今回のライブはブッキングライブ。
4組のイベント。
1番手は主催のムーミンさん。
安定のプレイで場を盛り上げてくれ、そして2番手が田中創さん。
この人がヤバかった。
長野県の伊那のシンガーさんということだったんだけど、マジで最高のブルースを聞かせてくれた。
ブルースと言ってもロバジョンとかみたいなゴリゴリのスリーコードではなく、カントリーやフォークの要素も取り入れたメローな曲調。
とてもアメリカ的な、放浪の風景を描く言葉とギターがあまりにもかっこよかった。
久しぶりに弾き語りで痺れさせてもらった。
そんで3番手が俺。
和やかな空気の中、アンコールもやらせてもらってとても楽しいライブだった。
ラストが横浜の上野誠さん。
彼もブルースマンなんだけど、田中さんとは違いファンキーでノリノリに攻める演奏。
最後の最後まで大盛りあがりのめちゃくちゃ楽しい、いいライブだった。
あー、またここでやりたいなぁ。
山桃果さん、ムーミンさん、共演者さんとお客さん、本当にありがとうございました!!
それからみんなで軽く打ち上げへ。
「いやー、金丸さんめちゃよかったです!!」
そんな嬉しいことを言ってくれるタカシ君。
本当ありがとうね!!っていうか本当全然インドの時と違うから!!あまりにも!!
これ今。
ただのオシャレないまどきの若者。
でもみなさん覚えてますか?インドでこんな人出てきました?
インドの時のタカシ君、これ。
違いすぎる(´Д` )
ていうかインド汚い(´Д` )
「あー、もっと話したいっすわー!でも今から伊那市まで帰るの2時間くらいかかるんだよなぁ………」
「もういいじゃん!!車中泊しようよぅ!!飲もうよぅ!!」
「………よーし!!そうします!!飲みます!!」
「イヤッホイ!!ビール持ってこおおおいい!!」
やっぱり旅で出会った人たちって、どうもしっくり来る。
肌が合う。
この夜はさらにブログを読んでくださっている軽井沢に住んでいるバッグパッカーの女の子もやってきてくれ、みんなで夜遅くまで色んな話をした。
タカシ君、あの時は本当に本当にありがとう。
インドの路上で一緒に飲んだチャイ、あの味は忘れないよ。
また会えて嬉しい。
いいなぁ。
ああ、また旅したいなぁ。