最終編…………
「金丸さん、旅楽勝じゃないじゃないですか。」
瞬間、会場がどよめく。
僕も気づいた。でも信じられない。
あいつがここにいるわけがない!!!!!
あいつはちょっと前に台湾でお金が稼げなくて行方不明になっていた。
いるわけない!!
しかし変装の服を脱いで現れたのは、あの世界で1番世界一周できなさそうな旅人、小林イクゾーだった。
「なんでお前ここにいるんだーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「あ、ども、チュッす。」
ボロボロの服、伸びっぱなしの髪、痩せこけた体、紛れもなく小林イクゾー。
オーストラリア、シンガポール、タイ、そして韓国で一緒に遊んだあの頭のイカれた男。
「お、お、お前なんでここにいるんだ!!台湾にいたんじゃないのか!?」
「ずっと日本に潜伏してました。金丸さんとラインで電話した時も、台湾のフリして日本でした。チュッす。」
会場騒然。
ブログの読者さんが多かったので、イクゾーの登場で大盛り上がり。
そして会場のどこからか聞き覚えのある笑い声が聞こえる。
うん、間違いない。
あの笑い声はジェニファーさんだ。
あの人の手引きか………(´Д` )
いやもう、本当驚いたわ!!!!!
ショータ君はもちろん、カッピーもみんなこのことを知っていて隠してやがったのだ。
あんなに、ライブの演出どうするー?とかってめっちゃ真剣にみんなで悩んでたのに!!
全然気づかんかったわ!!!!
このことでそれなりにほぐれていた緊張がさらにほぐれた。
イクゾーとショータ君がステージから降りて、俺が1人残される。
照明が落とされた。
真っ暗な会場。
するとバックスクリーンに動画が流れる。
僕が世界の旅の中で撮ってきたリアルな日常の動画だ。
そう、今日のこの舞台は旅の中のワンシーン。
今まで歩いてきてここにたどり着き、また先に進んでいく。
何気ない動画を流す。
動画が終わり、明かりがついた。
静寂の会場。
完璧な静寂。
しかしその静寂を楽しめた。
ステージの上にひとりぼっち。
とても神聖な気分。
気持ちよかった。
静寂にギターを鳴らす。
歌をうたう。
会場の隅々に声が響いた。
演出は、橋の下で野宿しながらギターを弾いていたら、音につられてホームレスや警察なんかの人がやってきて、楽しくなっておもむろにドンドン演奏に加わっていく、というもの。
ナナちゃん、たっぺい君、そうまちゃん、
この最高のメンバーで思いっきり弾けた。
カッピーが忙しい中で作ってくれた旅の動画も秀逸で、それを曲の合間にバランスよく挟んでいくと、とてもいい場面転換になる。
そして最後の曲。
弦楽隊のジュンペー君とセナちゃんが入り、ヒラセド君がアレンジしてくれた僕の新曲、故郷を歌った。
この数ヶ月間、苦しみ続けた世田谷区民会館ライブが終わる。
あんなに無我夢中で駆けずり回って、大笑いして、たくさんの仲間ができて、時には胸の内を吐き出しあって、頭を抱えて悩んだライブが。
そう思うと、歌いながら曲が終わって欲しくなかった。
歌詞のひとつひとつを丁寧に噛み締めた。
もっと歌っていたかったな。
ステージを降り、メンバーの安堵で賑わう楽屋を通り過ぎロビーに行くと、物販コーナーにたくさんの人が溢れていた。
「サイン会はこちらでーーす!!!」
スーツを着たカッピーが大声でお客さんを案内していた。
すぐにテーブルについて、本とCDを買ってくれたかたと握手をし、そして僭越だけどサインを書かせていただく。
みんなみんな、色んなところから来てくれており、遠くは九州からという人もいた。
何十人もの人が列を作ってくれていた。
そこからは大忙しだった。
区民会館の撤収時間が22時だったんだけど、ライブが終わったのは20時40分くらい。
1時間ちょいで音響も照明も大道具も、楽屋の片付けもロビーの片付けも全てを終わらせないといけない。
これってかなりヤバい状況。
そのため舞台監督の出町君はライブが押さないようにすることに執心していた。
猛ダッシュで撤収が始まったわけだけど、僕はなによりもサイン会に専念してくれということだったので片付けには参加せず、ひたすらお客さんたち1人1人と握手。
22時までにサインを全部終えられるか?という行列。
もし22時をすぎてしまったら膨大な超過料金が発生するという大人の事情。
1秒たりともオーバーすることは許されない。
なんとか15分前にサイン会を終え、それから楽屋に走るとすでに荷物はなし。
荷物はどれが誰のかもわからんまま、とにかく袋の中に全部ぶちこみまくって、搬出口につけたエスティマにゴミ収集車に入れるみたいに放り込んでいく。
雨が土砂降りになっており、みんなずぶ濡れで荷物を出しまくり、なんとか時間ギリギリで会館から脱出することに成功した。
打ち上げ会場のヨンチャに移動すると、エレベーター前の廊下スペースには荷物やゴミが山のように散乱し、店内には人が溢れかえってすでに大盛り上がりになっていた。
店に入りきれない人たちは廊下で酒を浴びている。
たくさんの人たちが、良かったよ!!感動した!!と声をかけてくれた。
ブログずっと読んでました!僕もいつか世界一周したいんです!ってそんな熱い人たちも。
懐かしい顔もたくさんあった。
世界の色んなところで会った旅人たちが、みんなそれぞれに仲良くなってくれているのが嬉しかった。
カッピーはテキーラをボトルで一気飲みしていた。
まだ、ライブが終わったっていう感覚はまったくなかった。
ずっと追い詰められてたもんなぁ。
しばらく飲んで、仲のいいみんなで中華料理屋さんに移動した。
ノリさん、アツシくん
えっちゃん、エロジュンペー、
カンちゃんもケンゴくんもいた。
そしてもちろんあの男も。
「金丸さん、この超ラーたんめんって辛いですかね。」
「ん、辛いの苦手なの?」
「ほっ、この僕に辛いの苦手と?笑っちゃいますね。スミマセン、超ラーたんめんひとつ。」
「はいー、お待ちどう様ー。」
「……な、なんだよこれ………バカじゃねぇの…………」
「あれ?イクゾー君ビビってるの?」
「な!!何言ってるんですか!!ビビってるわけないでしょ!!ちょっとだけ辛そうですね!!いやー、僕ってほんと辛いものに目がないんですよ!!じゃ!いただきま、コキュ!!キュポ!!!」
「ケペッ!!!コケピッ!!!」
なにかに変身しそうになってました。
「あれ?もうギブなの?イクゾー君。」
「か、金丸さん………これは本気でヤバいやつです………超ラーなめてました。こんな辛いの初めてかも。」
「まったく大袈裟なんだからー。」
「大袈裟じゃないですよ………見てくださいこのスープ…………種だらけですよ………明日僕からなにか咲きますよ…………」
「そんなにー?どれどれ………………コキュッ!!」
「鼻水が赤い…………」
やっぱりイクゾーは面白いなぁ^_^
まだ実感もなにもなかったけど、とにかくライブは終わったようだった。
みんなと別れ、三軒茶屋のビルの下、ぼんやりと空を眺めながら歩いた。
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