2015年4月3日(金曜日)
【北海道】 札幌市

朝からものすごい暴風雨が逆巻いていた。
遠藤さんの家のすぐ近くにあるラーメン屋さんに行くのも吹き飛ばされそうになる。
そんな大荒れの天気なのに、ラーメン屋のゆげやの店内はたくさんの人で溢れていた。
本当、札幌の人たちはラーメン好きだなぁ。
マジで街の中ラーメン屋だらけで、どこもたくさんの人が集まっている。

味噌ラーメン、美味しいなぁ。
あまりにも天気が悪くて外に出ることもできず、今日は家で日記を書き、ギターを弾いて曲作りをしていた。
子供たちとトランプをし、寝袋を洗濯していただき、ノンビリとした金曜日。
「曲作りっていつもギターでやってるしょ?それだと癖でメロディーが似たような感じになってしまうんだよ。だからたまに譜面で作ると、いつもと違うメロディーラインが作れるんだよ。」
なるほど。遠藤さんの言うことっていつも経験に裏打ちされた納得させられることばかりだ。
そんな遠藤さんが今日は何度も顔を苦痛に歪めていた。
幻肢というものだそう。
遠藤さんは両足がない。しかし、足のない部分が痛むんだそう。
明らかに足の甲が痛んだり、画鋲を踏んだような痛みが走るという。
頭が覚えているからだ。
そんなことにまで悩まされて付き合っていかないといけないなんてな。
大変すぎるよ…………
夕方になり、用事の時間になって街に出ることにしたんだけど、遠藤さんの家は駅から少し距離がある。
だからってわけじゃないけど、何を思ったかこのひどすぎる暴風雨の中、自転車で行くというチョイスをしてしまう僕はやっぱり頭がおかしいのだろうか。
コンビニでカッパの上下を買い、ママチャリ号にまたがって雨の中にこぎ出したんだけど、雨の日にカッパでチャリとか修行でしかないです。
「ぬぐおおおお………す、進まん…………」
首に雨が入ってきて流れてくるわ、カッパで隠れない部分の上着が濡れまくりだわ。
もうムートンの靴はただのぐちょぐちょ長靴状態。
暴風でカッパのフードが吹き飛んで頭も顔も吹きっさらし。
風が向かい風過ぎてまったく前に進まない!!!
逆に追い風になったらペダルをこがなくても勝手に前に進むというくらいの風。
もう街の人、みんなそれ何ですか?何の役に立つんですか?ってくらい謎の物質に変形した傘を持って歩いてる。
道路に傘の残骸が散乱しすぎ。
もうぐちゃぐちゃになってやっとの思いで札幌のデパート、エスタに到着。
どざえもんみたいな顔をして地下に降りると、まぁ煌びやかですよ。
オシャレな札幌ヤングたちが闊歩してます。
その中を歩くどざえもん。
「金丸さーん!元気にしてましたかー!」
そんなどざえもんに声をかけてくれたのは、シホちゃんだった。
シホちゃん、そっちこそ元気にしてた?
懐かしいよな…………
初めて北海道に来た時、富良野で車が壊れてどうにもこうにも動けなくなってしまった。
どうしようかと思ってるところでバイトに雇ってくれたのが、富良野の大工さん、鈴木親方だった。
一生懸命お手伝いし、木の屑にまみれ、屋根の上に上がり、みんなでお酒を飲み、最高に楽しい日々だった。
その親方の娘だったシホちゃんはあの時まだ中学3年生だった。
素朴な田舎の女の子は、あれからバンドを組み、ベースを弾き、歌を歌い、大人顔負けの活躍をしていた。
高校に入ってからはあまり会うことも少なくなっていたけど、ライブがある時はよく顔を合わせていた。
ジャニスのムーブオーバーを朴訥と歌っていたあの生真面目なステージ、今もはっきり覚えている。
あれから11年。
シホちゃんはホテルで働きたいという夢を実現させて札幌のホテルに勤務している。
そして嬉しいことにボーカル教室に通って、あの頃よりもさらに音楽に夢中になっているようだった。
「たまにライブやってます!今年は出来ればオリジナル曲を増やして自主制作でCD作れたらいいなぁ。」
みんな、歳をとれば音楽をやめてしまう。
あんなに一生懸命やっていたのに。
やめる理由なんて生きていればいくらでも作り出せるから、いくらでもそれらしい理由を並べることができるし、みんな、それだったら仕方ないね、と理解してくれる。
なんとなく肯定してくれる。
諦めを。
仕方ないことだけどね。
でもこうして久しぶりに会った人と音楽の話が出来るのは嬉しいことだよ。
シホちゃん、また会おうね!
ありがとう!!
地下街のバーを出て、またママチャリで吹っ飛びそうになりながらやってきたのは創生川沿いにあるイカしたアメリカンバー。

ベガーズハーレムといういかにもストーンズ大好きって感じのお店に入ると、カウンターに座っていた男性が振り返って、大声を出した。
「このイカれ野郎!!帰って来やがったか!!!おおーい!!みんな!!こいつギター1本で世界一周してきた文武っていうんだよ!!」

まるで子供みたいに目をキラキラさせて喜んでくれたのはこのバーのマスター、近藤さん。
近藤さんと初めて会ったのは数年前の稚内。
当時、日本最北のライブハウスとして名を馳せていたBBクラブをやっていた近藤さん。
何度か遊びに行って飛び入りで歌わせてもらったりしていたんだけど、昔からマスターは子供みたいに純粋にロックを愛するギタリストであり、優しいアニキだった。
あのBBクラブを友人に引き継ぎ、札幌で新しいこのベガーズハーレムをオープンしてから6年。
このお店でもちょくちょくライブをしてるみたいだった。
「本当よく生きて帰って来やがったなぁ………いやぁ、ロックだぜお前。ホラ!飲もうぜ!!」
「あー、金丸さーん、どうもどうもー。」
そこにやってきたのはヨンチャの常連さんの女の子。
ちょいと用事ついでに遊びに来てたみたいで、明日東京に帰るらしい。
せっかくだから飲みに行こうかって誘ったんだけど、この夜はマスターと女の子、それにお店の面白い常連さんも加わってなんだか大盛り上がりになり、よっしゃ次いくぞー!と2軒目へ。


札幌の目抜き通りにある、旅好きが集まるというバーに入ると、怪しげな狭い空間に確かにヒゲでダボっとした服を着たそれっぽい雰囲気の人たちがたくさんいた。
「みんなー!彼6千円で世界一周したんだよ!マジすごいんだから!!」
「へー、6千円で。」
「ふーん。」
特に食いついてこないヒゲタボさんたち。
世界一周とか普通だし、みたいな感じ。
日本で会う旅好きの人って本当こういう反応なんだよなぁ。
全然そんなのビビらんし?みたいな感じ。
俺なら普通に、そうなんですかー!?どんなルートだったんですか?って食いつくけどなぁ。
まぁいいけど。

この夜は本当飲んだ。
チャンポンしまくってしこたま飲んでたら、遠藤さんからメールが来ていたことに気づくのが遅くなってしまっていた。
「金丸くん、悪い。熱が上がっちまって入院することになった。でも気にしないで予定通りにしてな。」
メールを見て、少しみんなとお喋りしてから、女の子をホテルまで送って行って、急いで家に帰った。
でももう遠藤さんは病院のベッドの上だ。
奥さんも付き添いで行っているはず。
俺が慌てたところでどうにもならん。
遠藤さんは、いつものことって感じで慣れた様子だった。
その慣れた感じが悲しかった。