日記の順番間違えてた!!
2015年3月10日(火曜日)
【群馬県】 前橋市 ~ みどり市

雪かぶっちょりやる。
べらくりなっちょりやる。
風が強すぎて耳と鼻がとれそうです。冷たくて。
赤城おろしマジ嫌い。
「はあああああんん!!行きたくないいいい………こんな寒いのに北上とかしたくないいいい………ていうかゆうべの酒で二日酔いキモい…………」
「とりあえずラーメン行きましょうよ。お腹空きました。」
というわけで冬晴れの空の下、乾燥した集落と田園風景を眺めながら、アツシ君の運転する車で走った。
北関東の田舎の風景は子供の頃に里帰りしたお婆ちゃんの家のような古めかしさがある。
懐かしくてほんのり胸が締めつけられるのは……………まぁ、ただの二日酔い(´Д` )



ああ、なんてお腹に優しい味なんだ、佐野ラーメン……………
これほど二日酔いにぴったりなラーメンが他にあるだろうか…………
家系とか二郎系とか大勝軒系とか、とにかくエグいくらい味がどぎついラーメンばかりの関東において、独自の立ち位置を保ち続けるラーメン界の貴公子、佐野ラーメン。
あっさり鶏ガラ醤油で、青竹打ちの不ぞろいな縮れ麺。
シャキッとしたネギ、あくまで控えめな味のチャーシュー。
昔食べたときは、なんだこのやる気のねぇラーメンは?ああん?ってなったけど、今はこの優しさに包まれていたい…………
名店は数あれど、今回チョイスしたのは1番佐野ラーメンらしい代表格のお店です。ここです。

ちょ、赤城おろし邪魔!!
おぐら屋。
優しさが欲しい時にどうぞ。

かつて紡績で栄華を極め、北関東でも屈指の活気を誇っていたという桐生の町は、もうとことん寂れていた。
これほど見事なシャッターストリートがあるだろうか?ってほどのシャッターぶりは、なんかもうアートみたいにすら見えてくる。
往時の繁栄を偲ぶように飲み屋街だけはそれなりにデカいので、一周中はよくこの町でも歌っていた。
ヤクザさんに怒られたりいろいろあったけど、まぁそれなりに楽しかった記憶がある。
桐生動物園も、激安遊園地も大好きだ。
でも赤城おろしの寒風は町までも縮こまらせてしまっているように見える。
あんまり冷たく吹かないでやってくれよと思ってしまう。
大間々の駅を過ぎると、国道122号線が山の中をうねりながらのびる峠越えのルートになる。
この山の尾根をしばらく走れば栃木県に入り、中禅寺湖があり、日光に至る。
一般的に日光は鹿沼のほうから向かうと思うが、今回は裏から攻めてやろう。
なんにもない山の中を突っ切っていくと、突然新しい県に出るあの峠の雰囲気ってのが大好きで、日本中の峠に行きまくった。
なんだろうなぁ、あの峠の魅力。
取り残された境界線。
ボロボロの看板、江戸時代の石標とかが草に埋もれたりしているのかたまらなくそそる。
峠フェチってやつかな。
今回もなかなか面白い山道。ひたすら一本道なので乗っちまえばこっちのもん。
雪山越えヒッチハイクだ。
なんも問題なし。
「金丸さん、俺来月あたりからオーストラリア行ってきます。ケアンズからメルボルンまでヒッチハイクしてみます。またどっかで会いましょう。」
アツシ君にいい感じのヒッチハイクポジションまで乗せて行ってもらい、そこで見送った。
アツシ君、お世話になったね。
今回いろんなところに連れ回したことで、群馬のミュージシャンたちと繋がって早速3本ほど飛び入りライブの機会をゲットしたアツシ君。
音楽仲間は繋がっていて損はない。
お互いこれからもいっぱい場数踏もうな。ありがとう!!

場所は悪くないんだけどなかなか止まらないのは、俺が友達とイヤホンで喋ってニヤニヤしながら親指立ててるからですね。
2℃くらいしかない雪が残る山道で1人でニヤニヤしながら親指立ててますからね、ギターに日光って書いて。
頭悪いですよね。
でも気分は晴れやかだ。
目の前には雄大な雪山がそびえ、その向こうに華厳の滝や東照宮なんかの日本の名所があるということを想像すると、旅の険しさが爽やかさすら連れてくる。
旅をしているという実感こそ、やっぱり生き甲斐なんだと感じる。
顔がしばれ、足が冷えきり、立てる親指の感覚が薄れていく。
それがとても気持ちよくて、解き放たれる気分だ。
乗せてくれた車を見送ると、山の中のドライブインは静寂に包まれた。
古びた売店の横にある商店の明かりだけが小さく光っている。
すでに日は沈み、栃木県との県境に近くなった山の中は夜の闇におおわれ、この時間になるとまったく車は走らなくなった。
草木ダムというダム湖が山の底で不気味に黒い平面を作っている。
トンネルがポッカリと口を開けて、風だけが吹き抜けていた。
ドライブインのコンビニはさすがに山の中なので19時に閉まるとのことで、まだあまりお腹は空いていないがカップラーメンを買った。
客のいない店内。
店員のおじさんがカップラーメンのバーコードを読みながらちらりと俺を見る。
こんな夜に大きなバッグを持ってやってくるやつのんていないんだろう。
怪しいと思われたって仕方ない。
こういう時はなるべく爽やかに挨拶。
袋を受け取って、笑顔でありがとうございますと言って店を出た。
寒い。
こいつはなかなかの寒さだ。
自動販売機の前のベンチでカップラーメンを食べ終わってから、どんどん体が冷えてきた。
今夜はマイナス2℃まで下がる予報。雨は降らない。
マイナス2℃ならどうってことはない。
今までマイナス20℃の中でも寝袋だけで野宿したことがある。
しかしやっぱり久しぶりの冬の野宿はそれなりにこたえる。
膝の感覚がなくなり、指がかじかんでiPhoneをうまくいじれない。
夜のドライブインはどこまでも静寂が広がるのみで、張り詰めた冷気の中に1人ぼっちで座っていると、夜の闇に溶け込んでいきそうな感覚になっていく。
見つめるのはありのままの自然。
そして対照的な心。
どこまでもどこまでも、1人の怖さを楽しめる。
1人に落ち込んでいける。
風が吹いてぶるっと身を縮める。
そこに誰かが歩いてきた。
足音が近づいてくる。
暗くて顔が見えない。
男なのか女なのか。
すぐ近くまで来てわかった。さっきのコンビニのおじさんだった。
注意されるかな、と一瞬思った。
「ヒッチハイクしてるのかい?寒いだろー。はい、これよかったら食べな。」
するとおじさん、手に持っていたお弁当をベンチの上に置き、笑顔で車に乗り込んで帰っていった。
誰もいなくなったドライブインにまた静寂が息を吹き返す。
ベンチの上のお弁当。
そういえば昔、高校1年のときに初めてギターを持ってヒッチハイクで遠出した時、大分のどこかの町でほか弁の建物の横で風をしのいで寝たことがあった。
寝袋とかマットとか、野宿の経験なんてなにもなかったので、膝を抱えて寒さに震えることしか出来なかったたんだけど、その小さな冒険は高校生の小さな冒険心を刺激するには充分なものだった。
寒くて寒くてたまらない夜を過ごし、なんとか朝まで耐えることができたんだけど、その時、いつの間にか出勤していたほか弁のおばちゃんがやってきて、ノリ弁を渡してくれた。
家族と友達くらいしか自分の周りにいない10代の子供にとって、その他人からの無償の優しさは感謝よりも驚きでしかなかった。
え?な、なんでくれるの?お金払ってないし?
え?なんで?
人ってこんなことするもんなのか、他人に…………
田舎の馬鹿なガキにはなかなか受け止めきれないもんだった。
あの時の驚きは、きっと、今となっては薄れたと思う。
それは年を重ねて、もらうことに慣れてしまったから、ということもあるけれど、と同時に自分もそれができるようになってきているからだと思いたい。
うん、それにしてもやっぱりまだ驚くな。
お弁当を見つめながら、しみじみ思った。