「うちはねー、高校を卒業したら国内にはおらせないって方針でやっとったんやわ。」
マチュピチュを後にして、車の中で豊田さんと色んな話をした。
豊田さんのお子さんはオーストラリアとかイギリスとかに住んで、現地の方と結婚して幸せに暮らしており、お宅には可愛らしいハーフの子供の写真が飾ってあったりする。
お子さん四人が全員海外留学なんかの経験があり、かなりグローバルな家族だ。
家族が集まる時には外国人さんたちも混じっており、さぞ賑やかで楽しいものになるんだろうな。
そんな豊田さん、若い頃は俺のような放浪の旅をしていたんだそうだ。
大学生のころに日本全国を旅していたとのこと。
「北海道とか、北陸とか、長いこと滞在した場所もあるなぁ。」
「泊まるところはどういうところなんですか?やっぱりユースとかですか?」
「ユースホステルは最初のころによく泊まっとったな。でも後半はずっと大学の寮や。」
「へー、そんなに全国の大学にお知り合いとかがいたんですか?」
「ああ?違うで。知らんか?あー、金丸君の世代だとないんかなぁ。大学の寮ってのは大学生やったら自由に泊まることができるんよ。布団とか貸してくれてな。そうした旅するやつとかを泊めてくれるんやわ。学生同士の助け合いってのがあったんやわ。」
なるほどー、そいつは知らんかった。
当時の大学生ってのは、学生運動のイメージだけど、繋がりを大事にする自立した考えの人が多かったように思える。
諸君、彼は我らプロレタリアートの鑑であり~!!みたいな演説とかしてそうだ。
学生同士の助け合いってのが、普通に存在していたんだろうな。
「さて、ところで金丸君はライブのある週末まで何するんや?」
「え?まぁ、ブログ書いたり、練習したり、夜はアーケードで路上したり、です。でもまた今日からずっと雨の予報なんで困ってるんですよねー………」
「おお、そうか。昼間はやることないんやな?」
「まぁ、ないっちゃないですね。」
「ほうか。よし、ちょっと行こうか。」
そうして車を走らせてやってきたのは、とある造園屋さん。
なんだろ?
なんか用事でもあるのかな?
車は敷地に入っていき、事務所の中から1人のおじさんが出てきた。
「おー、成瀬ー。なんか二日酔いかい?この歳になってよう飲むなぁ。ところで、この彼。金丸君て言うんやけど、旅しとる人なんよ。明日から3日間頼むわ。」
「おう………ほな、朝の8時半に来てな。長靴と手袋と………」
はい?一体なんのお話をされていらっしゃるんですか?
手袋がどうしたんですか?
「金丸君て、足のサイズはナンボや?」
「え?……25.5ですけど……」
「よっしゃ、ほんなら大丈夫や。」
「な、何が大丈夫なのか1ミリもわからな、」
「ほんなら頼むなー。」
「遅れんようになー。」
金丸文武。
どうやらバイト決定。
お、俺がバイトォ!!??
「ちょ!ま、マジですか!?僕造園屋さんの経験なんてないし、4年以上労働したことないんですけど!!」
「大丈夫大丈夫、簡単な仕事やからすぐ覚えるよ。金丸君くらい色んな経験しとったら何でもできるやろー。ほな温泉行こうかー。」
「ちょ!温泉とか言ってる場合じゃないです!!造園屋さんって石運んだり植木を刈ったりする大変なやつですよね!?そんなの僕できな、」
温泉気持ちいい。
「気持ちよかったやろー。松山のもんは誰も道後温泉やら行かへんよ。他にもいい温泉いくらでもあるからのー。」
「そうなんですねー。すごいお湯がトロトロしてて気持ちよかったです。」
「よし、それじゃあご飯行こうか。日本一美味しいお好み焼き屋があるからそこ行こかー。そしてそのあとは知り合いのライブバーに行こう。」
「あ!いいですね!なんか今日ってイベントとか入ってるんですか?」
「いや、飛び入りデーやな。だいたい出るのは決まっとるけどな。」
「へー、そうなんですね。松山のミュージシャンの演奏が聴けるの楽しみです!」
「うん、金丸君は2曲ね。」
聞いてねぇ(´Д` )!!!
俺演奏するの聞いてねぇ(´Д` )!!!!
ほへぇ!?と慌てふためくうちに車はお好み焼き屋さんに到着。
たしかに美味え!!
たしかに美味えんだけど、いきなりライブとか言われて何を歌えばいいのか焦ってしまってゆっくり味わえない(´Д` )!!
とにかく緊張をどうにかしたくて瓶ビールを2本開けて、ほどよく酔いが回ったところで、いざライブバーへ突撃。
雨の中、階段を下りていくと、「シングアウト」というお店があった。
店内は結構広くて50人は入れるスペース。
正面にステージがあり、電子ドラムのセットも置いてある。
中に入ると、すでに集まっていた人たちが「あー!豊田さーん!」と挨拶してきた。
やはり豊田さんは愛媛の音楽業界では知られた人なんだろう。
地元のみなさんが次々に演奏していく中、何をやろうか頭を悩ませていると、急に気持ち悪くなってきた。
トイレに駆け込むと同時にゲロが出てトイレにうずくまる。
お、おかしいな………瓶ビール2本で吐くほど弱くないのに…………
最近ずっと一人だったからあんまりお酒飲んでなかったので弱くなってるのかな…………
何もなかったかのようにトイレから出て、また席に座って周りの人たちと挨拶し、会話をさせてもらった。
そしてついに俺の番に。
初めての松山のライブバー。
飛び入りデーではあるけど、もちろんドキドキする。下手なことはできない。
「え……みなさんこんばんは。宮崎から来ました金丸文武です…………今、ゲロを吐きましたが頑張って歌います!!」
「イエーイ!!」
「はははは!!いいぞー!!」
つかみはOK!!そして2曲!!
なんとかやりきった………途中戻すかと思ったわ…………
色んな方とお話しさせていただき、フェイスブックを交換し、有意義な時間を過ごして23時を過ぎてからシングアウトを出た。
そしてこの夜は豊田さんのお宅に泊めていただけることに。
「金丸君、これ長靴な。あとこれ着て作業すればええから。」
豊田さんがジーパンとトレーナーを用意してくださり、あとは明日の朝に仕事に行くだけ。
お、おいおい、俺がバイト……?
1人で8時半に出勤して肉体労働ですか?
ずっと音楽で食ってきてて、まさかこのタイミングでバイトなんてすることになるとは………しかも造園屋さんて………まったく想像つかないんですけど………
二階にあがり、用意してもらった部屋に入ると、広々とした布団が敷いてあった。
電気を消して布団に入ると、柔らかいクッションに体が沈んですごくリラックスできた。
目をつぶる。
久しぶりの布団に、すぐに眠りに落ちた。
といいたいところなのにまったく眠れない(´Д` )
目をつぶっていても全然眠りにつけない。
早く寝ないといけない。
明日は7時半に起きないといけないのに、すでに1時を過ぎている。
早く寝なければと焦るほどにドンドン意識が冴えていく。
うーん、とゴロゴロ寝返りをうつ。
何をこんなに緊張してるんだ。
今まで色んな仕事をしてきたし、色んな怖い目にあってきた。
修羅場もそれなりにくぐってきたつもりだ。
それに俺は自分でも手先の器用なほうだと思う。
真面目に仕事に取り組むし、いつもバイト先ですぐに溶け込んで先輩たちと仲良くなって飲みに行ったりする社交性もそれなりにあるつもりだ。
多分うまくやれると思う。
なのに緊張して眠れない。
石を乗せた三輪車をこかしてしまい、いきなりオラァ!!って剪定バサミで丸坊主にされたらどうしよう………
植木の刈り込みをミスってしまい、脚立で殴られたらどうしよう…………
世界一周とかしてたんですよー、あははーって言った瞬間、てめー、なめてんのか?お?って髪の毛つかまれてメンチきられたらどうしよう………
ゴロゴロ………
ゴロゴロゴロゴロ……………
あああ………
眠れないいいいいい!!!!!!
次のライブは三重県!!!
松阪市!!!
三重のみんなー!!名古屋のみんなー!!
遊びきてえええええ!!!!
とびきり不吉な夜になること間違いなし!!
だって対バンはこの人だもの………
【ザ・弾き語りライブ】
★2015年12月6日(日曜日)
★三重県松阪市 『音楽屋 tak楽ki』
★チケット1000円
★14時半オープン
★15時 1部スタート
・小池洋也
・もみじ
・瀬古祐介
・ゆうきまん
・こうのひろなり
★17時 2部スタート
・剛兵太
・金丸文武
よろしくお願いします!!!