2015年11月17日(火曜日)
【愛媛県】 松山市
「金丸君!なんやもう愛媛に入っとったんかい!水くさいのぉ。連絡してくればええのに。明日の昼にウチに来な。待っとるからな!」
フェイスブックにちろっと近況を書いたことによって、愛媛でお世話になっている豊田さんからメールが来たのは昨日のことだった。
ひとりぼっちで寂しかったのはあるけど、だからといって連絡をしてしまったらみんなに気を使わせてしまうのはわかっていた。
なんとか1人でこの状況を楽しいものに持っていかなければと思っていた。
でも、そんな中で豊田さんからメールが来たことで、やっぱり心が安堵したことには間違いなかった。
久しぶりに誰かと会えることで自分の存在意義を確かめられるようだった。
約束通りお昼前に豊田さんのお宅に向かおうと、松山の駐車場で日記を書きながら時間調整をしていると、豊田さんから電話がかかった。
「今どこにおるんや?松山?ならあと15分で来れるな。大通りに出て待っとくからなー。」
もうすぐにでも来ていいぞという豊田さん。
まだ歯磨きも顔洗いもしていなかったので、慌てて車を走らせて近くの水場に行き、身だしなみを整えた。
豊田さんは元々僕のブログの読者さんで、世界一周の旅のかなり前半の時点からコメントを下さっていたかただ。
いつも僕のことを熱心に応援してくださっていたことをよく覚えている。
毎回のコメントがとても励みになっていた。
日本に帰国してから愛媛に行き、初めてお会いした時も、わざわざご自宅のカフェスペースでお友達を集めてミニライブを開催してくれたり、東京でのライブに人を呼んでくれたりと、今でも本当に親身になって僕らのことを応援してくれている。
世田谷のライブの時には、エイベックスの顧問の稲垣さんに行ってもらうようお願いしといたから、と言われ、本当かいな?と半信半疑だったが、マジに稲垣さんが来た時は本当に驚いた。
そしてエイベックスの顧問を動かしてしまう豊田さんって一体何者なんだ?!と思ったもんだ。
未だに謎の多いおじさまだ。
今回の四国でも、前回のようにご自宅でのミニライブを予定してくれている豊田さん。
ライブ当日である日曜日にお会いするつもりだったのに、こんなに早くお会いすることになるなんてな。
車を走らせていると、また電話が鳴った。
「どこや?そろそろ本屋の看板とか見えてきたんやないか?」
しばらくすると、道路際に立ってくださっている豊田さんを見つけた。
雨の中、傘をさして誘導してくれる豊田さんの後についてご自宅に到着した。
「車やなー。金丸君が車乗っとるなんて違和感があるなぁ!よし、ほんなら行こうか。」
ん?どこ行くんだ?
挨拶もそこそこに豊田さんの車に乗り込んですぐに出発。
豊田さんはなかなかマイペースな人だ。
いつも予定をガッツリ組んでくれるので、それに合わせていれば良いようにしてくれる。
たまに戸惑うけどね^_^
松山市内からしばらく走っていき、田んぼが広がるのどかな田舎道に入っていく。
四国山脈の山々が黒い雲にけむり、水墨画のような怪しい美しさをたたえている。
あの向こうにあるのが石鎚か。
豊田さんにここ数日の鬱憤を吐き出させてもらうと、大笑いしながら早くくれば良かったのに、と言ってくれる。
空気がとても気持ちよくて、体の中のモヤモヤとしたものがゆっくり薄れていく。
やってきたのは、豊田さんのお知り合いがやっている山の中の喫茶店だった。
ログ作りの大きな建物で、見事なガーデニングが広がっている。
店内にはオシャレなおば様たちが何組かおり、お昼のゆったりとした時間を過ごしていた。
「ここのママも旅行が好きでな。おーい、ママ、この前北海道どうだった?」
「豊田さんー!これ見て!豊田さんが北海道のことたくさん教えてくれたけん、楽しかったわー!」
オシャレなママさんが分厚いアルバムを2冊持ってきてくれた。
開いてみると、そこには北海道の写真がびっしりと貼り付けられてある。
しかもこれがただ事じゃない細かさ。
俺たちの親世代の人たちって、当時そういうのが流行ったのか知らないけど、アルバムの写真の横に、「おすましさん!」とか「我らの青春!」とかってコメントを書き込んだりしてる。
あれ見ると時代を感じるんだけど、ここのママさんもそれをやっており、しかも写真を切り貼りしたり、パンフレットの切り抜きを説明文として挿入したりと、見事なガイドブックを作り上げていた。
野草、花、動物、食べ物、他にも色んなものの特集ページなんかもあったりして、そんじょそこらのガイドブック顔負けの充実ぶりだ。
切り抜きかたも、丸だったり四角だったり、オシャレで凝っていてきらびやかだ。
「すごいですね、これ。」
「これなぁ、こういうのの教室やってる人がいるんやわ。切り抜きかたとか教えてくれるんよー!」
なるほどー。
おば様たちって、手芸が大好き。
こうして趣味や日常を楽しんでらっしゃるのを見ていると、こっちも暖かい気持ちになってくる。
「よっしゃ次行こうか。」
お昼ご飯を食べたら豊田さんの車に乗り込んで、次の場所に向かう。
「愛媛にもマチュピチュがあるんよ。ここはなぁー、なかなか強烈な場所やから、連れて行く人がみんなビックリするんやけど、まぁ金丸君なら大丈夫やろ。」
「え?……ど、どんなとこですか?僕これでも潔癖症だったりして普通の男なんですけど…………」
「橋の下とか公園で寝てた男が何言うてんねん。」
笑いながら車を走らせていくと、やがて住宅地の中に入っていく。
どこにでもある閑静な住宅地。
その一角に…………なにやらズタボロの空き家があった。
おどろおどろしいその雰囲気。
陰気なオーラが漂ってる。
「さ、着いたで。行こかー。」
「え、どこに行くんですか……?」
「どこってそれやで。」
平然とその廃墟みたいな建物に突入していく豊田さん。
ちょ、だ、ダメですよ!何してるんですか豊田さん!
倒壊して潰されますよ!!
普通に中に消えていった豊田さん。
こ、これは一体なんだ………?
確かに入り口が開いているけど、マジで潰れる5秒前みたいなオーラ全開なんですけど……
おそるおそる近づいていくと、入り口の上に何か書いてある……………
た、確かにマチュピチュって書いてあるっていうか、それよりもコーヒーという文字にビビる。
ま、まさか喫茶店なのか………?
まさかねぇぇ………
最近、古民家カフェって流行ってるけど、ここは古民家っていうかもはや、古でしかない。
いや、もしかしたら、もしかしたらボロボロなのは外観だけで、中に入ったらガラスとステンレスで覆われたデザイナーカフェになっていて最新のエスプレッソマシンがあって、なんか見たこともない名前のカッコいい紅茶とかが置いてあるかもしれない!
そうだよね!豊田さんみたいなダンディーなおじさまがくるような場所だもん!
よーし!そう考えたら楽しみだ!
いざ!浸入っていうか入店!!
不思議の国に迷い込んでしまった。
壁にかけられた奇妙なお面の数々。
ありとあらゆるところに雑然と置かれた謎の置物たち。
全てのものが黒くすすけて、埃が鬼のように降り積もっている。
お、落ち着こう。
そうだ、これも松山風最先端ファッションなのかもしれない。
そうそう、メニューにはきっとアールグレイとかカモミールとか、他にも見たことのないようなオシャレな紅茶とかがたくさんあるはずだよ!
「いらっしゃーい、座って座ってー。」
迎えてくれた1人のおばさん。ニコニコしながら何かの殻をむいている。
「あ、紅茶飲む?健康にいいわよー。」
見たこともないような紅茶っていうか、見たこともないような植物の種を取り出して自家製紅茶を作ってらっしゃるようですね、健康に良さそう!!っていうか帰ってもいいですか?
「金丸君、面白いやろー。このママはなぁ、若い頃に世界中を放浪しとった人でなぁ。車でサハラ砂漠を横断したりしとるんよ。5歳と3歳の子供つれて。」
な、なるほど………
豊田さんの話ではこのママは、世界中を放浪しまくるという自由な人生を送ってきて、30年前にこの家を旦那さんと二人でのんびりと作り、畑仕事をしたりしながら生きてきたかたなんだそうだ。
家の材料は廃材がほとんどで、お金はまったくかかっていないとのこと。
これが当時の写真。
そして現在。
「久美子ハウス?あー!もちろん知ってるわよー!あの旦那さんも元気にしてるかしらねぇ。」
マジで当時のヒッピームーブメントの中で自由に生きることを貫き、旅の人生を送ってきたというママ。
「お金なんてたいして要らないわよー。使わないから貯まっていくしねー。」
2人のお子さんはどちらも大学に行っており、立派に自立しているんだそう。
もちろんママはイカれた世捨て人ヒッピーなんかじゃなく、旅の中でよく会ってきた、ある一定の常識にとらわれない達観した人種の人だ。
このエリアに突入している人は、頭おかしい人が結構いるけど、もちろん全員そうではなくて、とても賢く現代人として生きてる人もいる。
そこは本当に紙一重だ。
「この家もねー、近所の大工さんとかが手伝ってくれてねー。別に急ぎじゃなかったからのんびり作ったのよ。ちょこちょこお金入るやん、そしたらまたちょこちょこ釘とか買えるやん。そんなペースでね。旅してたらわかるでしょ?こういう生活があなたも好きなはずよ。」
ドキッとする。
たしかに嫌いではない。
自然とともに生きていくのが人間のナマの生き方かもしれない。
でも俺は、きっとここまでは徹底できないだろうなぁ…………
山の中にゲルを建てて暮らしてる人とか、孤島の人里離れた森の中に住み着いてる人とか、廃村に移り住んで芸術活動してる人とか、この日本にもかなりの仙人クラスの人がたくさんいる。
旅の中でそういう人たちに会うたびに、そこに行ってしまうのが怖かった。
こうなってしまったら、もう現代文明には近づけなさそうな気がする。
みんな立派に生きて、命を堪能している。
では社会の歯車になって自分を殺して生きてる人生はダメなのか?
社会からドロップアウトして、気ままに生きていくのが素晴らしいのか?
どっちも好きにすればいい。
こうしなければいけないなんて、決めつけることはない。
俺は、もう少し文明の中で揉まれていたいな。
面白い場所に連れてきてくれて豊田さんありがとうございます!!
ママ、またお話しさせてもらいに来ます!!
自分を見つめるのに、とてもいい時間だった。
何時!?
次のライブは三重県!!!
松阪市!!!
三重のみんなー!!名古屋のみんなー!!
遊びきてえええええ!!!!
とびきり不吉な夜になること間違いなし!!
だって対バンはこの人だもの………
【ザ・弾き語りライブ】
★2015年12月6日(日曜日)
★三重県松阪市 『音楽屋 tak楽ki』
★チケット1000円
★14時半オープン
★15時 1部スタート
・小池洋也
・もみじ
・瀬古祐介
・ゆうきまん
・こうのひろなり
★17時 2部スタート
・剛兵太
・金丸文武
よろしくお願いします!!!