小名浜はただの小さな漁港の町。
爺ちゃん婆ちゃんが普通に歩いている、のどかな寂れた港だ。
しかし実はその実態は東北屈指の大風俗街。
え?こんなどこにでもある普通の港町なのに?
そう、あまりにも異様なんだけど、こんな小さな町なのに一本裏路地に入ったらそこらじゅうに風俗店が軒を連ねているという不思議な町なのだ。
昼間からこんなにピンクのネオンが瞬いている町なんてそうはない。
あの風俗街特有の匂いがそこはかとなく漂っている。
ふらっと歩いてみると、通りにたっているおじさんたちが我先にと群がってきて声をかけてくる。
こんなところ男1人で歩いていたらかっこうの餌食でしかないよな。
「お兄ちゃんー、可愛い子いるよー。」
「お探しですかー?」
以前ここに来た時はここまでたくさんの客引きさんはいなかった。
不景気の波で風俗街なんて息も絶え絶えの状況ってのがお決まりのパターンだ。
しかし現在は原発景気の影響で作業員たちがガンガン女を買いに来てるんだろう。
ここは震災で破壊された被災地だけれども、まるで水を得た魚のように町が活気を取り戻してるような気がした。
港町には風俗が多い。
何ヶ月も海に出ていた男たちが久しぶりに陸に上がればそれを迎える町も自然とそうなる。
港ごとに女がいるって漁師さんは多いけど、女たちにとっては数多い男の1人なんだろうな。
浅川マキの歌声が聞こえてきそうだ。
カモメー、カモメー、笑っておくれー
え?もちろん僕は買いませんよ?
風俗は苦手です。
10代の頃に興味本位でソープに行って、息子があんたくらいの歳なのよ~とか言うタイヤマンみたいな体をしたおばちゃんにマットの上でヌルヌルやられてから女怖いってなりました。
なにこれ女怖いってなりました。
セックスしたいです。
小名浜を後にしていつもの湯本温泉のさはこの湯に行き、さっぱりしてからいわきの町に戻った。
こんなに何度も来ているいわきなのに未だに美味しいご飯屋さんを見つけられておらず、いつも晩ご飯に悩んでしまう。
今日もブラブラとあちこちを探し回ったけど見つけられず、仕方なくいつも歌っている飲み屋街の中にある小料理屋のあべさんに流れ着いた。
ずーっと前からここにあるあべさん。
おばちゃんたちの溜まり場になっており、もはや飲み屋なのか?って怪しくなるようなただの井戸端会議の場所なんだけど、その分融通もきく。
おばちゃんなんか食べさせてーとお願いすると、作るから座ってなー、と声が返ってくる。
雑居ビルの1番奥にある洞窟みたいなこのお店。
メニューもなんもない。
まぁ定食くらいなら安いだろうとお任せで座っていること15分。
焼き魚定食が出てきた。
婆ちゃんちに来たみたいなごはん。
タバコをスパスパやりながら新聞のスウドクをやっているおばちゃんの髪型は、上だけパンチパーマで、もみあげと襟足だけが長いストレートという人類でおそらくおばちゃんしかやったことがないであろう衝撃的なもの。
10年前からまったく変わっていない。
おばちゃんおあいそー。
はいよー、1500円ねー。
ぬぅ……そこそこ高え………
まぁ美味しいからいいけど。
おばちゃん、いつもありがとうね。
さーて、今日は金曜日。
木曜日であれだけすごかったんだから花金はどんなことになってしまうのか。
はやる気持ちを抑えてすぐにギターを準備していると、周りのお世話になってるお店からオッちゃんたちがなんだなんだ?と出てきて、早速声をかけてくる。
「おー!歌うのか!?いい歌うたうんだろうなぁ!?」
「社長さんー、このお兄さん上手なのよー。」
「おお!歌ってみろ!!」
飲み屋の女の人たちが俺のことをお客さんに宣伝しまくってくれ、さらに通り過ぎる人たちも半ば無理やり引き止めてくれ、すぐにたくさんの人が目の前に集まってくる。
イスとテーブルを出してきて、お店から酒とツマミを運んできて、俺の前で即席の野外居酒屋が出来上がった。
よーし、気合いだぞ。
ゆっくり、気持ちを込めてギターを鳴らした。
一瞬にして軽く2万突破。
ぬおお………いわき凄すぎる…………
現在、単身赴任や出張、さらには流れ者たちがこのいわきに集結しているのでみんな異様なほど羽振りがいい。
でもそうして稼いでいる俺のことをお店の女の人たちがみんな心配してくる。
お金が入ったらポケットにしまいなさいって。
ここは日本だ、盗まれるようなことはまずない。
しかしこうして作業員たちが日本中から流れてきていると、中にはヨソにいられなくなったチンピラもいるし、それに伴ってヤクザさんや中国系のゴロツキも多い。
この前大阪で子供2人を殺した男も、前まで福島で除染作業をしていた。
みんながみんなそうではないが、ワケありの連中もそこそこいるだろう。
いつもより少し気を張りながら歌い続ける。
確かに地元の穏やかそうな人に混じってガラの悪そうな連中が歩いている。
いやー、あそこのやつらガラ悪いなぁ。
あ、あっちのやつらも人相が悪いなぁ。
するといきなり1人の兄ちゃんが勢いよく俺に声をかけてきた。
うわ……面倒くせぇ………なんだよ、手にワンカップ持ってんじゃねぇかよ………
勘弁してくれ…………よ?
爽やかー。
なにこの爽やか青年ー。
なにこの弟系福島代表みたいなやつー。
「金丸さん!!お久しぶりです、!」
ぬおおおおおお!!!!
ワタル君ーーーーーーー!!!!!!!
覚えてる人は覚えてる。
ていうか写真あったかな?
メキシコの首都、メキシコシティーの安宿で仲良くなった男前旅人、ワタル君とまさかのいわきで再会。
あの時宿にいたメンバーはみんな美男美女だったのでイヤッホイ!!って感じだったけど、俺はキモいくらいカッコつけてたのであんまり仲良くなれなかった。キモい。
そんな中にいたひときわ男前のワタル君。
メキシコシティーの後、オアハカでも会って、みんなが死者の日のペイントをして盛り上がってるのを見ながらキモいくらい毎日歌ってたなぁ。
いやー、カッコつけてたなぁ。
「金丸さん覚えてますか!?僕宿の初日にドミトリーで金丸さんの隣のベッドになったんです。そしたら金丸さん、会って2秒で僕にコンドームくれたんです。忘れられないなぁ。」
へ、へー!そんなことあったっけ!
いや!別に宿の女の子たちをどうにかしようなんて1ミリも思ってなかったっていうかサガミオリジナルしか俺使わないしね!
いやー、やっぱりコンドームを使うのは男としてのエチケットだよね。ドミトリーといえどなにがあるかわからないから、やっぱりワタル君も持ってたほうがいいかなっていうかワタルがピュンって漫画知ってる?ワタルがピュッ!なんつって!
キモい。
その後も路上はひたすら盛り上がり続け、気がつけばすでに1時を回っていた。
ワタル君のお知り合いであるマッサージ屋さんのお姉さんが、友達の誕生日ソングを歌ってほしいということでスナックに行き、サプライズで歌を歌い、今日の路上は終了。
可愛いなぁ。
ワタル君は現在かなりお固い仕事をしており、それを活かして海外と接点を持った活動をしていきたいとのこと。
やっぱり一度海外に行った人間は、何かしら外国を視野に入れたことを展望に持つ。
みんな頑張ってるなぁ。
俺もウダウダやってる暇はねぇなぁ。
ワタル君、会いに来てくれてありがとう。
また今度コンドームあげるね!