2015年9月2日(水曜日)
【大阪府】 中崎町
日本一周に出発して沖縄に渡り、なんにもわからない中、死にもの狂いで旅が始まった20歳の夏。
路上で歌っても稼げないし、お金は数百円しかないし、台風来て一晩中びしょ濡れになって、なんだこれ?ってなってた最初のころ。
野宿して、飯も食えず、そんな中なんとかバイトを見つけて食い扶持を手に入れ、ようやく人間らしい日々を送れるようになった。
沖縄では色んなところでバイトをして金を手に入れ、なんとか九州に戻ってくることができ、そこから北上の旅が始まる。
路上では相変わらず稼げなかったので各地でバイトをしながら進んで行ったんだけど、大阪にたどり着いた時に選んだのがホストのバイトだった。
求人情報誌を読んでいたら、それはそれは高時給な上に寮があるとまで書いてある。
旅中なので1カ月くらいの短期のバイトしかできないので、そういった面でもホストは融通がきいた。
初めての福岡以外の大都会。
大阪。
めっちゃ都会の中、田舎者の21歳がおどおどしながら街を歩き、心斎橋のビルの中に入って面接を受けた。
ホスト。
マジホスト。
まだあの時の流行はビジュアル系。
ホストのみんなもそんな感じの髪型。
怖いよー、と思いつつも、お金持ちのおばちゃんに気に入られてベンツ買ってもらえたらどうしようなんて愚か者だれもが抱く妄想を持って貸しスーツを着込む。
ドルチェ&ガッバーナのスーツ。
「ほなキャッチしてきてー。」
面接に行ったその日から即仕事。
最初の仕事はキャッチ。
路上に立って女の子に声をかけてお店に連れて行くこと。
ただのナンパ。
これがひどい。
心斎橋といったら当時ホスト通りと言うくらい、道の両側にホストがわんさかたむろして、歩いてる女の子に群がって声をかけていた。
女の子たちもそりゃうんざりする。
そして大阪の女の子は口が悪い。
「死ね!!」
「消えろブサイク!!」
「鏡見たことあんのかハゲ!!」
マジボディブロー。
ひどすぎる(´Д` )
心弱いやつなら2秒で泣いて帰る。
そんなこと言われるので、怖くて声をかけられずにいると、はよ行ってこいやー!と先輩に無理やり背中を押されて女の子の前に飛び出る。
「こ、ここ、こ、コンドーム、じゃなくてコンバンハー。どこ行くのー?よかったらちょっと飲みにいか……」
「死ね。」
「いやー!そうだよね!よし!死のう!」
スタスタ歩いてみんなのもとに戻る。
「なにしてんねーん。もっと強引にいけやー。ほら、次来たでー。あれ行けー。」
ホスト通りなので、まっすぐな心斎橋アーケードよ向こうから女の子が歩いてくると、ホストたちが順番に女の子に群がる。
各店舗の縄張りがあるので、それぞれのホストは声をかけながら歩いて、女の子の足を止められなかったらある程度の場所で離脱する。
それ以上歩くと、他店の縄張りに入ってしまうからだ。
そうなるとモメる。
ホストが離脱すると、次の店のホストが群がる。
また10メートルくらい歩いたら離脱して、次のホスト。
そんな具合で向こうの方から女の子がハエを振り払うがごとくうっとおしそうに歩いてくる。
そんで僕の番。
キャッチできるわけがねぇ。
「やぁ、僕と一緒に花山薫の握撃について話さないかい?」
「殺すぞ。」
「ごめんなさーい、チース!」
それを夜の20時から、深夜の4時までだったかな。
それからは店に戻り、先輩たちが接客してるところにヘルプに入り、ゴミのようにビールやお酒を飲みまくって先輩の売り上げを伸ばしてあげてクローゼットでゲロ吐いて眠る。
寮がある、というのは真っ赤な嘘で、なんとお店の中で勝手に寝ろ、ということ。
稼げてる先輩たちは自分でアパートを借りられるが、下っ端たちはみんな店の中のソファーでゴロ寝。
1日2000円という最低日給だけをもらってカップラーメンでしのぐ毎日。
ひどい現実だよなぁ。
銭湯に入りに行き、髪の毛をみんなセットし、戦闘態勢を整えるのが18時頃。
それから店内の清掃をするわけだけど、売り上げトップ10に入ったら清掃をしなくていい。
若い20歳くらいのやつが、チース、と遅れてお店に出勤してくるが、ホストは売り上げが全て。
何ヶ月も働いているけど、まだ掃除ばっかりしてる先輩もいた。
掃除が終わるとミーティングだ。
「てめーらぁ!!もっと売り上げのばせやぁ!!」
「はい!!」
「OLよりキャバ嬢!!キャバ嬢より風俗嬢!!ソープ沈めてナンボやぞぉ!!!」
「はい!!」
そうしてミーティングが終わると、下っ端たちはキャッチ。
先輩たちは店でのんびりしたり、お客さんの女の子とご飯を食べに行ったりする。
毎日毎日路上に立ってキャッチをしていると、色んな人に会った。
ホームレスのおっさん、キャバ嬢、風俗嬢、家出少女、ヤクザ、
みんな夜の片隅ではしゃぎ回って、行き場もなくさまよっていた。
キャッチも慣れてくると、次第に連絡先を交換できるようになってくる。
もちろんお店に連れていけないと話にならないんだけど、連絡先を交換できるのはかなり強い。
ここから怒涛のマメ男攻撃でメールをしまくる。
また会いたいなぁとか、本当可愛いよねとかって甘い言葉を吐きまくって頑張れば、やがてお店に遊びに来てくれる。
1日に50人くらいと同時にメールしたりしていたなぁ。
お店に来てもらえたらあとはひたすら楽しんでもらうこと。
料金は初回が1500円だったかな。
ハウスボトル飲み放題で。
ビールは小瓶が1000円。
もちろん他のメニューはかなり高い。
ガンガン飲ましていけば女の子も気分が良くなる。
そこでホストたちは、ボトル入れていい?本当素敵だよ、とかテキトーなこといいながらどんどんお酒を注文して、気がついたら数万円のお会計。
払えない女の子にはツケにしてあげる。
女の子はツケができるんだーと思って、またツケで飲みに来る。
そして月末にとんでもないことになり、青ざめる。
ホストは態度急変。
ガチガチの追い込みをかけてお金を回収する。
払えない女の子には夜のお店を紹介したり、時には風俗に落とす。
風俗に落ちた女の子は、こんなにお金もらえるのー!?と驚いてガンガンお店に入り、そのお金でまたホスト通い。
やがてクスリに手を出すようになってシャブ中になり借金がかさんでヤクザに売り飛ばされて北陸辺りの温泉街にさようなら………なんてのは稀なケースだろうけど、まぁない話ではない。
逆に女の子が逃亡してツケを回収できず、借金をかぶってしまったホストが大阪の建設会社のタコ部屋に突っ込まれたりもしていた。
怖い怖い。
僕はいつも女の子の予算をきいたり、あんまり無理してボトル入れなくていいよ、と言ってのんびりやっていた。
みんながやっきになって売り上げをのばそうとして枕営業をしまくったり、強引に飲ませてツケを作らせたりしてるのを横目で見ていた。
おかげでコンスタントにお客さんもついて、キャッチも慣れてきて、売り上げも順調。
1ヶ月しか働かなかったけど6位になっていた。
ヘルプも頑張っていたので先輩たちから可愛がられてよくご飯に連れて行ってもらっていた。
朝、ビールの空き瓶が散乱する店内。
床にはビールをまき散らして水たまりができてる。
風俗嬢たちが大騒ぎしてホストにビールをぶっかけていたからだ。
パンツ1枚で泥酔して倒れてる先輩をまたいで店の外に出ると、明るい太陽がビルの上にのぼってきている。
ビルがたくさんあって地面はみえない。
平日の街は当たり前のサイクルで動いており、誰もが仕事に向かって行く中、酔っ払った頭でタバコをふかしながら心斎橋の橋を歩いていた。
懐かしい心斎橋。
懐かしい大阪。
あの時、お客さんで来てくれてた女の子たち、何してんだろなぁ。
もう結婚とかしてるんだろな。
女性のお客さんが99パーセントを占めるオシャレなレストランで知り合いとランチをし、ついでなのでちょいと梅田の周りを散歩してみた。
高架下を抜けてやってきたのは中崎町という町。
初めて来た場所だ。
黄色い家っていう、旅好きが集まるカフェがあるみたいなのでやってきたわけだけど、この中崎町、めちゃくちゃ面白いエリアだった。
梅田から歩いて15分くらいで、周りにはなんにもないし、用事がなければ絶対来ないような場所
しかしこの中崎町、実はオシャレで個性的なカフェが集まる、なんともアーティスティックな町だった。
マジでここだけ時代が昭和。いや大正か?
それくらいに町並みが古い。
古民家と長屋だらけ。
潰れて誰も住んでいないであろう屋敷とかがそこらじゅうにある。
こりゃなんじゃ?と思って調べてみたところ、どうやらこの中崎町、戦時中の空襲から被害をまぬがれた地域らしく、そのため今も当時の古い民家が残っているんだそう。
ほー、すごい場所だ。
しかもさらに面白いのが、それらの人の住まなくなった古民家を利用したカフェがわんさかあるところ。
めっちゃ迷路みたいに路地が入り組んでいるんだけど、その中に無数のカフェやギャラリーが散らばっている。
どこも個性的でアートの香りがして、隠れ家のような温かみがある。
あの頃、大阪っていったらめちゃくちゃ大都会で、宮崎の田舎者からしたらとても住めるようなところじゃなかった。
でも今じゃこんなにも肌がなじむ。
というか楽しい場所を見つけられる。
都会の歩き方が上手くなったよなぁ。
いやー、大阪楽しいな。
住みたいなぁ。