2015年7月8日(水曜日)
【千葉県】 成田
部屋の中で目を覚ます。
ゆうべのパーティーで飲みすぎて二日酔い&風邪気味の体。
布団から体を起こせない。
ぼんやりと昨日のことを思い出す。
ショータ君とはゆうべ別れの言葉を交わした。
イカれたパーティーだったけど、俺たちの別れにふさわしいものだったと思う。
これでもうショータ君とはしばらく会えない。
そっかー…………
もう会えないのか……………
なんだか胸がジンジンする。
初めてこの気持ちを理解した。
海外に行くやつを見送る気持ち。
僕はもう世界を一周してきている。
世界が別にこの世の果てのようなものではないことは充分すぎるほど理解している。
同じ地球に生きていて、メールやスカイプでいつでも連絡はとれる。
海外に行くことなんて大したことではない。
でも胸がジンジンする。
頭ではわかっていても、知り合いが海外に行くってのは、これほど喪失感があるものなんだな。
寝返りをうって目を閉じる。
ちらっと時計を見た。
いてもたってもいられなかった。
行くしかねぇよな。
体を起こし、シャワーも浴びずにそのまま部屋を飛び出した。
土砂降り雨の中、傘をさして雨の中を歩く。
ズボンの裾が濡れて、スリッパを履いた足はすでにずぶ濡れになっている。
急いで駅に入り、電車に飛び乗って新宿へやってきた。
雨は勢いを増し、新宿駅の構内は凄まじい人でごった返している。
人波をすり抜け、階段を2段飛ばしで駆け上がり、バスの発着場へ。
ここから成田空港行きのバスが出ている。
別に行く必要なんてない。
昨日のパーティーで充分別れの形になっている。
カッピーたちも、誰も空港には行かないと言っていた。
成田空港は遠い。
片道1200円もするし、時間も1時間半くらいかかる。
行く必要なんてない。
でもいてもたってもいられなかった。
ショータ君の飛行機は確か19時25分だった。
今15時半。
1時間半かかったとしても、まだ充分間に合うはず。
ただ出国の飛行機なので、前もって早めに中に入ってしまうかもしれない。
急ぐに越したことはない。
ズボンの裾をずぶ濡れにしながらチケット売り場に並び、次のバスのチケットをくださいと言った。
「バスは満席です。チケットがあるのは17時半のバスからです。」
なんだって!!!!!!
ええええ!!??
想定外すぎる!!!!!
そんなバスに乗っていたら到底間に合わなあ!!!
終わった…………
終わっちまった…………
い、いや!!
まだだ。
確か電車でも行けるはず!!
すぐに調べると、そこまで時間も変わらずに成田空港まで行ける電車があった。
すぐに階段を駆け下りて、人混みをかき分けプラットホームにダッシュした。
無事電車に乗って座席に座る。
空港には17時ちょいに着く。
やった、これならきっと間に合うだろう。
ショータ君はこれからアメリカのロサンゼルスに飛ぶ。
そして車を買い、3ヶ月かけて写真を撮りながらアメリカを横断してニューヨークに行く。
友達の多いショータ君なのでアメリカにもたくさんのツテがあり、そしてあの人柄なのですぐに仕事にもありつくだろう。
ショータ君には僕がカリフォルニアでお世話になったアンディーさんやセツさん、そしてチェロキーのインディアンのママへの届け物を預けている。
あの時出会った旅人の友達が月日の後に訪ねてくれることを、みんなきっと喜んでくれるだろう。
無事に世界一周を達成したことを彼らは喜んでくれるはず。
その役目をショータ君に任せている。
ショータ君なら必ず行ってくれる。
でもそんなことは関係なく、ただもう1回顔を見たかった。
成田空港に到着した。
急いでロビーの中を歩いて、それらしい出発ゲートを探す。
どこだろう?国際線のターミナルなので、ここのはずだ。
世界一周中に幾度となく来ていた空港。
これから旅に出る人たちの不安と期待が入り混じる人生の交差点だ。
その慌ただしさにふと胸をくすぐられる。
見送りにはショータ君の仲のいい、僕と共通の友達でもある女の子が来ているはず。
どこだ、どこにいる?
いきなり現れて、ワー!と驚かしてハグしよう。
いや、ハグなんて気持ち悪いか。
じゃーねーって、何気なく、手を振るくらいでちょうどいい。
そうしよう。
いやー、ショータ君の驚く顔が目に浮かぶぜ。
と、ドキドキしているものの、さすがにこの広い空港の中でショータ君を見つけ出すのは難しい。
時間は17時15分。
あんまりゆっくりもしていられない。
こっそりと、見送りに来ている女の子にメールしてみた。
「今どこいるー?空港来たんだけどー。」
すぐに返事が来た。
「あー、金丸さん来たんですね!!ショータ君そろそろ行っちゃうから早く来てくださいー。」
「わかったー、どのあたりにいる?」
「ターミナル1の南ウィングですー。」
南ウィングね。
あれ?おかしいな南ウィングの搭乗ゲートにいるんだけどな。
あれ………どういうことだ………?
ふと看板の文字が目に入る。
《ターミナル2》
にょおおおおおおおおおおおおあおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ス、スス、ス、スマタ!!!じゃなくてスミマセン!!!!!!ターミナル1にはどうやって行けばいいっちゃられりれるれら!!!!!!!」
「えー、そこのエスカレーターを降りてシャトルバスに乗っていただ……………」
ズバギュン!!!!!!!
猛スピードでフロアーを滑り、エスカレーターを滑り降りてシャトルバスに鬼剣舞みたいな顔で飛び込む動き、軽くジャッキーチェン凌駕。
動き出したシャトルバスの中で鼻の穴全開で親指の爪噛みすぎて深爪になりかけながらガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガク!!!!!!!!
なぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!
ターミナル間が遠いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!
大丈夫、これまで数々の奇跡を起こしてきた。
どんなピンチも乗り越えてきた。
そうさ、ショータ君だって世界中を飛び回る男だ。
田舎者みたいに何時間も前から搭乗ゲートに入ってしまうような肝の小さな男じゃない。
あと男なら飛行機の出発時間の30分くらい前に中に入って2秒でイミグレーションパスして、手荷物荷物検査で水持ってて、てへ、とか言いながらちょっと飲んで捨てて、デューティーショップでコンドームをダース買いするくらいの器だ。あ、コンドームなんてねぇか。
大丈夫っていうかバスドライバーさんドリフトしてくれえええええええええええ!!!!!!!!!!!!
メールが来た。
「金丸さーん、ショータさん行っちゃいましたー。」
3分。
3分違いだった。
汗だくで肩で息をしながら、ひと気のなくなったゲートの前で時刻表を見上げる。
行っちまったな。
財布の中にあるドルのジャラ銭をあげたかったのにな。
まぁ、こういうものありか。
これも俺たちらしいかな。
ショータ君、次は世界のどこかで会おう。
その時はまた今回みたいに面白いことやろうね。
ていうか成田空港の滞在時間5分ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~