瀬戸内海の水道と小高い山に挟まれた細長い場所に開かれているこの町は、土地が少ないので山の斜面に民家が広がっている。
なので生活路地の石段があみだくじみたいに張り巡らされている。
昭和の面影をそのままに残したレトロな町は、旅情をかきたてる場所として広島県の中でも屈指の観光地だ。
特に立派なカメラを提げた写真好きの観光客が多く、ひなびた脇道や線路、商店街などの写真を撮っている。
尾道は本当に素敵なとこだ。
ただ歩いているだけで映画のセットの中にいるような気分にさせてくれる。
そんな尾道。
俺がこんなにも何度も足を運ぶには理由がある。
ラーメンだよね。
尾道ラーメンっていったら全国的にも有名で、シンプルな醤油スープに大きい背脂が乗ったスタイルはこの町独特のものだ。
ラーメン屋さんはいくらでもあるんだけど、この町のトップ2は修華園とつたふじ。
どちらも60年以上前からある老舗中の老舗で、地元の人からも愛される超人気店だ。
味は修華園があっさり系、つたふじが濃厚系。
俺はつたふじが好き。
大好きすぎて尾道来るたびに必ず行ってるんだけど、まだ帰国してからは行ってないのでもう数年味わえていない。
日本全国のラーメンを食べ歩いた、もはやラーメンブログと言っても過言ではないこのブログの2015年ラストを締めくくるラーメンに不足なし!!
つたふじイヤッホオアオ!!!!
ってほげえええええええええええ!!!!!!(´Д` )(´Д` )(´Д` )
な、なんだこれ…………
せ、戦後の配給?
GHQが配給くれる系のやつ?
並びすぎにもほどがあるだろ……………
し、信じらんねぇ………と思いながらもとりあえず列の1番後ろに並んだ。
みんな観光パンフレットなんかを持った観光客ばかりだ。
そりゃ尾道来たらラーメン食べるわな………
にしても半端ない行列。
まぁ1時間くらいかなぁ、と思っていたんだけど、1時間を過ぎてもやっと半分くらいしか進まない。
12月の青空の下。しかも日陰なので体が芯から冷えてきて家族連れの子供がいやだあああ!!もう並びたくないいい!!と叫んでダダをこねている。
小僧黙れ!!ラーメン道はそんなに甘くないぞ!!
っていうか俺もそんなに行列には並ばないほう。
1時間も待つなんて年に1回か2回くらいだ。
つたふじはカウンターのみの10席くらいの小さなお店なので回転率が悪いのはわかるけど、それにしても全然進まない。
「うわああああ!!嫌だよおおお!!待ちたくないよおおお!!!」
黙れ小僧!!!みんな寒いんだ!!!
そして2時間後。
もういい加減イライラがたまらなくなってきたころに、ようやく、ようやくお店に入れた。
こんなに待ったの人生初だよ…………
とっとと美味しいラーメン食べるぞ!!と、入店して席に着く前にソッコー注文。
そわそわしながらカウンターの中の大将の動きをじーっと目で追う。
しかし、まったくラーメンを作ってる気配のない大将。
横の女の人も他のことをしている。
なにやらペットボトルみたいな容器にスープを入れている。何十個も。
あ、あれなにしてんだ……?
店内には10人のお客さんが座っているが、誰1人ラーメンを食べていない。
ただ座って待ってるだけ。
どういうことだ?と思ったら、いきなり地元の人っぽいおばちゃんが店に入ってきた。
「5人前注文してた◯◯ですけどもー。」
なっ!!!!!!
そう、まさかのお持ち帰り注文。
なんとこれほどの行列を待たせながらお持ち帰りのラーメンもやっていたのだ!!!
2人で!!!!!
しかも作ってるの大将だけ!!!!
女の人は会計と洗い物だけ!!!!
おい!!このクソ忙しい年末に忙しくなるってわかってて2人っておかしいやろ!!!
次々に10人前とか5人前とかのお持ち帰りを取りに来る地元の人たち。
行列に並ぶことなくラーメンを持って帰っていく。
その合間を縫って店内の客にラーメンを出す大将。
ど、どうりで行列が進まないわけだ………
そりゃ回転率悪いわ…………
イライラが限界に近づいてきて、早くしてくれよ!!と大将の動きを見つめる。
すでに入店して30分くらい経っている。
大将が1人でラーメンを作ってるんだけど、その動きがまた半端ない!!!
このお店では注文を受けたラーメンの数の麺を一旦全部釜にぶち込む。
茹で上がったらそれをひとつの丼に全て取り出し、他の丼に目分量で均等に移し替えていくというかなり謎の工程があるんだけど、これがもう本当大将が職人すぎて頭おかしくなる!!!
麺を均等に入れようとして、何回も何回も麺のやり取りをしているのだ。
んー、ちょっとこっち多いかな、もうちょっとこっちかな、って感じで麺を移動させるんだけど、驚くことに麺1本とかを移動させたりしてる。
おおおい!!!!!!!!
変なとここだわりすぎっていうか、最初から1玉ごと茹でたらいいんじゃないですか!?
やっと麺の量が決まったら今度は刻みネギを箸で入れていくんだけど、ここでも大将の職人気質発揮。
これマジで、マジで、
刻みネギの1粒を加えたり減らしたりしている。
もう2時間半待ってるからネギ1粒くらい気にしないから出してえええええええええええええ!!!!!!
大将こだわり凄すぎっていうか、もうちょっと効率良くすること考えて欲しいな…………
やっとありついたラーメン。
美味しい。
んだけど、やっぱりこんなにイライラして食べたら味わいに影響出るわ。
美味しかったけどね。
尾道の町を散歩して、日記を書いたりなどのネット作業をしていたら夜になった。
よし、今年最後の路上に行くぞ。
今年も何曲歌っただろう。
曲の数はおそらくここ数年では少ないほうだったかもな。
海外では毎日のように歌ってたけど、帰国してからは他の用事が多かったし、ライブも結構やった。
でもその分ライブのステージの感覚はだいぶ取り戻しただろうな。
あの世田谷のライブも本当にいい経験になった。
この前のヨンチャでの歌入れレコーディングもステージもとても勉強になった。
ステージに慣れること、人前で歌うこと、歌の技術、それらはまったく別もんだ。
今年培った様々な経験と技術を思い出しながら、今年最後のギターを鳴らす。
おそらく飲み屋の最後の営業日である今夜。たくさんの酔客が飲みに出ており、すぐにいろんな人が足を止めてくれる。
よーし、いい調子だぞ。
気合いを入れつつ、丁寧に、言葉を大事に………………
「ん……あれ…………」
その時、向こうの方から1人の怖そうな人が歩いてきた。
黒い皮のジャケットの襟を立て、眉を細くした、いかにもその筋の人っぽいオーラを漂わせている貫禄のある姿。
ズンズンこちらに歩いてくる。
や、やばい………あれ完全ヤクザさんだ………
ヤバい!!どうしよう!!!!
「てめー誰のシマでやってんだ?」
って言葉が全身から漂ってる!!!
今年最後の路上でヤクザさんにボコられるとか頼むから勘弁してくれ!!!
うわあああ!!!目の前まで来た!!!!
やだああ!!
目の前まで来たけど、超感情込めて歌ってますから周りの景色まるで見えてませんって感じで目を閉じて気づかないふりして歌い続ける!!!
頼む!!何も言わないで通り過ぎてください!!!
しかし、願いもむなしく声をかけられてしまった。
「おい、兄さん。おい。」
「はへぇ!!!!こ、殺さないでください!!!!造船所のクレーンで吊るさないでください!!!」
「兄さん、前もここでやってなかったかい?」
「ホヒィ!!!い、以前の分の稼ぎまで含めてショバ代を払わないといけなっちゃられりられろり!!!!!ポンポン船の後ろにくくりつけて尾道水道を引き回したりしないでくだ、」
「俺のこと覚えてないかい?」
「そ、そんな僕みたいな小物があなた様の記憶を頭の中にとどめるなんて身の程知らずなマネてきま、あ、あれ?に、ニゴさんですか?」
「おう!!そうじゃあ!覚えとったか!!フミ元気にしとったかー!!」
「うわー!ニゴさーん!!お久しぶりです!!!」
まさかの知り合い!!
っていうかニゴさん、本職さんだけどね…………
侠道会の直参というマジエリート。
あれは数年前のこと。
尾道の路上で歌っていたら、ニゴさんが声をかけてくださり、ニゴさんが経営するフィリピンパブの中で歌わせていただいたことがある。
最初はめっちゃくちゃ怖かったんだけど、ニゴさんは本当に優しい人で、カタギには腰の低い、これぞ侠客というカッコいい人だった。
この辺でなんかあったらこの名刺を見せればいいから、とニゴさんの名刺をいただいたんだけど、後が怖くてその名刺を取り出すことはせず、今も実家にしまっている。
まさかあのニゴさんとこのタイミングで会えるなんて。
「フミー、縁じゃのぉ。わしゃあ嬉しいでぇ!!」
「僕もめっちゃ嬉しいです!!」
「あれからどうしよったんかい?」
「世界一周してきました!!ニゴさんもお元気そうで!!」
「すごいのぉフミ!!世界一周か!!ほうかー、ワシもな、あれから組を継いで2代目なったんよ。」
「ぬぉう!!!マジですか!!おめでとうございます!!!」
「ほいで今日わしの誕生日。」
「な、なんてめでたいんだ!!!」
「フミ、飲もうぜ!!」
「あ、え、あ、今日路上最終日でまだ始めたばっかりっていうか今夜岡山のばあちゃんの家に車で帰ろうかなーって思っててー………」
「ここの2階、ワシの店じゃけぇ待っとるから!!いやー!嬉しいわー!!」
「は、はい!!!」
全員超怖いんですけど……………
「おう!!フミちゃん!!生まれはどこや!!」
「おう!!フミちゃん!!酒は飲めるんじゃろうのぉ!!」
「おうフミちゃん!!!!」
「フミちゃん!!」
「フゥミイイイちゃん!!」
「な、なんでしょう!!???!」
「いい男になったのぉ。やっぱり旅は男を磨くのぉ。」
「あ、ありがとうございます!!」
「ところで、フミはまだブログやっとるんか?前にワシと会った日のこと書いてくれたじゃろう?あれちゃんと見たんじゃあ。嬉しかったわー。また書いてくれんかい?」
「あ、も、もちろん書かせてもらいます。最高の再会ですもん!!」
「よし!写真撮ろうで!!」
「え、写真載せても大丈夫ですか……?」
「ん?なんか悪いか?ワシは全然構わんよ。尾道の田舎ヤクザって書いとってくれよ!!ははは!!」
誕生日ケーキが運ばれてきて、バースデーソングを合唱し、もうすごい大盛り上がり。
その後も、尾道のかつて超ワルかった先輩とかが集まってきて、ビビりながらもみなさんの前でギターを弾いて歌った。
まさか今年最後の演奏がヤクザの組長の誕生日パーティーとは、やっぱり最後まで展開読めなさすぎな1年だった( ^ω^ )
よく漫画であるような、親分が両手に若い美人の女の子を抱きかかえてオッパイ揉みまくってて若い衆が即座にタバコに火をつけて、火をつけるのが遅ぇ!!つって灰皿で頭カチ割られる、みたいな理不尽極まりない飲み会ではもちろんなく、ニゴさんはとにかくカタギの人に腰の低い紳士。
花田さんやリュウジさんたちもとても柔らかいかたで、色んな熱いお話を聞かせていただいた。
「ニゴさん、なんか初めて会った時ってすごくギラギラした感じだったけど、今回会って丸くなった感じがします。貫禄が出たっていうか。」
「ありがとうな。組長ってのは大変なもんだよ。あれこれ周りのことに気を使ってな、周りの目も気にせにゃあいけん。ヨソでみっともないことはできんし、愚痴も言っちゃあいけんけの。今まで人様のために体張ってきたけど、今は無茶もできん。窮屈なもんじゃあ。」
やっぱり親分さんになると大変なんだろうなぁ。
「フミはええなぁ。自由に世界を旅してきたんじゃなぁ。ワシにはできんことじゃ。男は器量じゃフミ。世界を見てきたんじゃけぇ大きな男にならにゃいけん。どんな辛いことも受け止めてそれを自分の糧にできるような男にならにゃいけん。それが本物の男か、一山いくらの男かの違いじゃ。」
2015年。
帰国して1年間、日本中で歌いまくった年。
今まで縁のなかったような色んな人に会って、自分の色んな面に気付けた年だった。
今まで以上に厳しい客観的評価が必要な年だったからこそ、自分と深く向き合うことができたと思う。
来年は自分の中の大事な部分を譲らずに、道をはっきりさせる年になるんだろうな。
何がやりたいのか、それを明確にする年。
まぁ、それを決めつけたくはないけどね。
何かがしたい、でもそれがわからないっていう美しい迷いをいつまでも持っていたい。
自分の人生に疑問を持たないなんて健全じゃない。
この前の高沖君にしても、昨日の松谷社長にしても、最近カッコいい男にいっぱい会ってる。
というか俺の周りにはカッコいい男ばっかりだ。
感謝。
2015年歌い納め。
残すところあと1日。
ニゴさん!誕生日おめでとうございます!