気合い入ったストリートシンガーがノリノリで熱唱している横を通って中津へ。
そう、タイトルにもある通り、大阪で1番危ない町というのは中津のことなのだ!!!!
ってのは嘘です。
中津はただのオフィス街です。
治安ウルトラいいです。
全裸で寝てても何もされません。普通に警察来ます。
そんな中津で合流したのはこの人。
青山社長、いつもどうもです!
最近よくご一緒させていただいている青山さん。
すごくアクティブで攻める社長さんで、これからも面白い事業の展開を狙っているみたい。
本当エネルギッシュな人で、しかも遊びをよく知ってて、昨日は梅田のマハラジャのVIPでシャンパン飲みまくってたらしい。
元気やなぁ…^_^
そんな青山さんとこの頃色んな話をさせていただいてる。
先のことはどうなるかわからないけど、出来ることがあったら協力させていただきたいな。
大阪で面白いことたくさんやりたいなぁ。
たこ焼き食べたいー!!
ミントたっぷりモヒート!!
さてさて、その次の日。
ミントたっぷりモヒートのおかげで若干二日酔いになりつつ、この日も人と会う約束をしていた。
電車に乗って向かったのは京阪電車の駅、萱島。
大阪の人でもたまに知らない人がいるくらい目立たない町なんだけど、俺にとってはこの萱島は大阪の何よりも大きな思い出の町。
そう、この萱島が僕が知る大阪で1番危ない町なのだ…………
電車は萱島の駅に到着。
大きな木がヌボーっと1階から2階のホームを貫いて天井まで達しているという世にも珍しいプラットホームを持つこの萱島駅。
この木を切ろうとすると必ず事故などの災いが起きて死者が出るという…………
なので駅はこの木を残したまま駅を作ったそうな。
たまに古い町を走ってると、いきなりアスファルトの道のど真ん中に大きな木が生えていて、みんなそれをかわしながら通行しているという場所がある。
とんでもなく邪魔だし危ないのに、その木は道のど真ん中に生えている。
それはやはり呪いの木であり、その土地の守り神の木であるから、切ろうとすると事故が起こるんだろう。
災いを呼ぶ駅…………そう、まさに大阪で1番危ない町の玄関にふさわしい駅なのだ………
萱島の駅西口………
な、懐かしすぎる………
ここで何度、血まみれの乱闘事件に巻き込まれたことか……
あれは旅に出たまだ最初のころ。
日本一周の旅として宮崎から北上して行き、大阪に入ったのは21歳の夏だった。
初めてやってきた大阪の大都会っぷりに田舎者の僕は縮みあがり、1人ぼっちでどうしていいかもまったくわからず、とにかく求人案内の冊子をめくった。
そこで見つけた、高収入、寮あり、という項目。
ビビりながらも電話をかけるとすぐに採用。
それがホストでした。
大阪のど真ん中、心斎橋アーケードの中でひたすら通りかかる女の子に声をかけまくってキャッチに明け暮れる毎日。
大阪のキツい女の子に死ねボケ!クソカスブサイク!とか暴言を吐かれながら声をかけまくり、朝方になると店に戻って先輩の席にヘルプでついて酒を一気しまくってゲロ吐いて更衣室で爆睡。
そんな何の生産性もないヒドい毎日だったけど、まぁこんな経験なかなか出来ないものだし、夜の心斎橋にたむろするダメ野郎たちの中で色んな人生を見ることが出来たのは本当に刺激的だった。
1ヶ月経って、風俗嬢とか看護婦さんとか、それなりにお客さんもついてきてまぁまぁ稼げるようになっていたんだけど、当時の彼女がもうホストはやめてくれと泣いてしまったので、キリよく1ヶ月でお店を辞めた。
1ヶ月しかいなかったのに送別パーティーみたいなこともやってくれて、汚いところばかり見ていたホストの世界も悪いものではないと思えた。
まぁ汚いんだけどね。俺もあの世界には長いこといられないと思った。
女に嘘ついてナンボの仕事だもん。
ホストでそれなりにお金も作れていたんだけど、大阪を出発する前にもうちょいだけ貯めておきたかったので、もう1度求人案内をめくった。
そこで見つけたのが、鳶職の会社。
日給1万円で寮ありだ。
宮崎で少しだけ鳶職のバイトをしていたことがあったので、これならイケるだろうと電話をかけ、会社に面接に行くと2秒で合格。
明日から来てね、と言われ、まぁ経験者だしそれなりに仕事も覚えていたので頑張ってお金貯めるぞーと意気込んで寮に入った。
ウキウキの寮ライフ。
いやっほう!
そう浮かれていたのがこの萱島の西口のアパートの一室だった。
地獄が待ち受けているとも知らずに。
次の日から拷問が始まった。
仕事は宮崎でやっていた鳶の内容とだいたい同じだったんだけど、とにかく周りの人がヤバかった。
ほぼ全員入れ墨。
小指ない人もいる。
まぁ鳶職やってる人ってのはほとんどそんな人です。
暴走族上がりとかヤクザ崩れ。
現場に改造単車で出勤したり、前の晩に街で暴れて留置所に入って仕事に来なかったり。
そんなのは宮崎でもよくあったんだけど、ここの会社はそんなもんじゃなかった。
鉄パイプでヘルメット割れるくらい頭をぶん殴られたり、バールで体を殴られてアバラ折れたりとか普通。
コケて鉄筋が足に刺さって血が出てても鉄板を運ばされる。
体の極限まで働かされてマジでもう無理、もう無理ってなっても休むことは許されない。
ズタボロでボコボコにされて満身創痍になって仕事が終わり、先輩の持つ荷物をすかさず持ってあげ、車に乗るときも、完璧なまでに席順を厳守。
守れなかったらボコボコ。
会社に戻ったら事務所にある食堂で先輩と晩ご飯。
当たり前に先輩のお酒を作り、タバコに火をつける。
一瞬たりとも気を抜いてはダメで、先輩のタバコがなくなったら、何も言われなくてもすかさず外に買いに走り、タバコを剥いて、取りやすいように一本だけ外に伸ばした状態で先輩の前に差し出す。
そんな鬼の化身っていうかただの鬼たちが集結している食堂でみんながお酒を飲んでいたら確実に喧嘩が勃発。
そう風の強い日に立ちションをしたらズボンにかかってしまうくらい確実ううううう!!!なくらい確実に喧嘩が勃発。
現場で鍛えまくった体で乱闘のゴングが鳴るので止める方も病院覚悟。
服をびりびりに破きながら命からがら乱闘を止めたかと思うと、今度は食堂を出て駅前に飲みに付き合わされる。
そして駅前でも町のチンピラたちと目があっただけて乱闘開始。
袖振り合うも喧嘩の縁。
ハハハハハー!!と笑いながら人をシャッターに押しつけて、もう意識ないのに倒れることも許さない勢いでボコボコにする鬼。
車で走ってて、ヤンチャな若者が改造バイクで走ってると、こいつ邪魔、と言って平然とぶつけてコカして走る先輩。
ほぼ毎日血まみれ。
なんとか先輩が疲れて家に帰ることになったらやっと解放されて1日が終わる。
フラッフラになりながら寮に帰り、玄関で地下足袋を脱いでいると限界が来てしまい、居眠りをしたかと思うと気がつけば朝。
ウギャッ!!とダッシュで地下足袋を履き直して会社に集合。
すると俺みたいに連日先輩に付き合わされて寝不足になってた若手のやつが寝坊をしてしまい、集合に遅れてしまう。
先輩は鬼の形相で寮に向かい、数分後に血まみれになった若手が先輩に引きずられて出勤。
そして仕事に出かけ、奴隷のように働かされて、言葉の限りに罵倒され、ヘルメット割れるくらい頭を殴られて、会社に戻ったらまた酒を作ってタバコに火をつけてデスマッチ開始。
マジで地獄(´Д` )
俺はまだマシだった。
宮崎で多少経験していたので、ゴールデンルーキーが来た、みたいに言われてたんだけど、周りの未経験の同年代の奴らは本当に悲惨な目に遭っていた。
大阪には西日本の各地から上京してきたやつらが集まり、その中でも地元ではブイブイ言わせてましたみたいな不良連中がこの会社に集結してくる。
へ!大阪がナンボのもんよ!俺は地元ではかなり悪くてよぉ!みたいなワル自慢たち。
そんな奴らが毎日鬼の化身たちに八つ裂きにされてウサギのように震えていた。
驚いたのは、つい先日までやっていたホストクラブで突然姿を消した先輩ホストがこの会社にいたことだった。
この先輩ホストは女の子にツケで飲ませまくった挙句、その売り掛けを回収することができずにかなりの借金を肩代わりすることとなり、店のケツモチさんからこの鳶会社に放り込まれていたのだ。
数日前までホストクラブで華やかに女の子をはべらせていた先輩が、ヒゲが生え、髪の毛もセットせずに、ズタボロの格好で鬼たちにボコボコにされている様子はかなり衝撃的なもので、案の定、数日してその先輩は姿を消した。
ワル自慢の奴らが鬼たちのシゴキに耐えられず、連日のように夜が明けると姿を消していた。
それくらい毎日拷問だった。
俺はかなり頑張った。
500円玉くらいのハゲが頭にできるくらい体を蝕まれても頑張って食らいつき、先輩たちにも認めてもらえるようになっていった。
会社は毎日300人くらいの職人が動いていたんだけど、その中でも精鋭のみが入ることが許される特攻部隊というものが存在しており、それに推薦された時は驚いた。
彼らは難しいと言われる現場に最初に乗り込んでいき、ズバーー!!っと仕事を片付けてしまう鬼の中の鬼で、10数人で組織された集団だった。
その名も白虎隊。
2秒で断った。
2ヶ月ほどそこで働き、ようやくお金もある程度貯まってきたので、会社に辞めることを伝えると、先輩たちが最後に送別会を開いてくれた。
いやー、みんな怖かったけど根は優しいんだよなぁ、みなさん本当にお世話になりました!!とワイワイガヤガヤやってて、ちょっと電話してきますと外に出ると、すぐそこで道路の上で先輩が後輩に馬乗りになって花山とスペックリアル再現みたいな感じでボッコボコのグッシャグシャに殴りまくってて、止めに入って服ビリビリになって血まみれになって病院送りで送別会完了。
マジウケる。
本気で萱島で起こる暴力事件の8割くらいがこの会社じゃないのかな………
何回警察署に行ったかわからん2ヶ月。
そりゃあ根性もついた。
ちょっとやそっとのことじゃビビらなくなった。
やれるもんならやってみろや?って簡単に引かない姿勢はここで養われたんだと思う。
あれから12年。
まだ21歳だったんだよなぁ。
濃密な21歳だったなぁ。
久しぶりに萱島にやってきたのはあの頃の先輩と飲むため。
鬼の化身たちの中でも、特に俺を可愛がってくれた先輩だ。
当時から職人のリーダー格のような人だったんだけど、今では会社の看板を担う1人なっていた。
そんな先輩と居酒屋に行き、色んな話をした。
当時いた人たちはほとんどがいなくなっているとのことだった。
「もうあの頃みたいに危なくはないで。今の若い奴らはあの頃の感じでやってたらすぐに辞めてしまいよるからな。食堂もだいぶ雰囲気変わってな、テレビもなくなったし、テーブルもええヤツに変わったんや。」
「そうなんですね。なんでですか?」
「テレビあると喧嘩の元やろ。テーブルもええヤツにしたから腕相撲禁止になったんや。腕相撲すると喧嘩になるやろ。」
「根本変わってないじゃないですか………」
「それに前に◯◯狩りがあったんよ。うちの会社の人間を狩るバカたちが出てきてな。だれだれさん、覚えとるか?」
「あぁ、あの暴力大魔王のかたですよね?」
「そうや。あの人が車運転してたらバイクに囲まれてな。ヤバイってなってバイク1台轢いて逃げたらしいんやけど囲まれてしまって、覚悟決めて木刀で迎え撃ったらしいわ。何人かは病院送りにしたったらしいけど、目潰しスプレーされてボコボコや。車には指紋隠すために消化器ブチまけられとったらしいわ。」
「そ、そうですか…………」
それブルースウィリスがやるやつじゃないんですか?
本当映画の世界だわ…………
若い頃ってのは、みんなワルに憧れるもんだ。
金髪のヤンキー女とかジャージを着たキャバ嬢とかをはべらせたがる。